腹を割って話すとは、本音を話す、隠していた気持ちをさらけだす等といった意味である。
世の中には、腹を割って話したがる人がいるし、腹を割って話すことで信頼関係が深まる、相互理解が深まり、より仲良くなれるといったような意見もあり、腹を割って話すことには価値があるといった見方が強い。
腹を割って話すことに価値が見出される理由
常に人が、騙し合い、化かし合いをしていることの証明に他ならない。
だからこそ、本音を知り、本音を伝えることで、騙し合い、化かし合いを排除した信頼関係を築きたいのだろうと思う。
私も腹を割って話すのが嫌いなわけではない。
しかし、時に慎重であったほうが良いとも感じている。
腹を割って話す際に生じる欲求
人はなぜ、腹を割って話したいのだろうか。
そこには、理解されたい、そして受け入れてもらいたいという欲求があるのだろう。
そして、本音を聞ければ、他者よりも信用されていると、特別感を感じられるのだろうし、信用されたいという欲求があるのだろう。
これらの欲求があることを忘れてはならない。
それらの欲求が生じている時点で、意識的・無意識的に関わらず、欲求を満たすための会話をしてしまっている。つまり、承認してほしいという欲求を満たすために話し、信頼されたいという欲求を満たすために応答している。会話は相手との関係性の中で成り立つものなのだから、相手に承認されるように、本音が多少なりとも改変されている可能性があるのだ。
腹を割って話すことで、必ずしもお互いの本音が語られるわけではないことを理解しておくほうがいい。腹を割って話しているようでも、実は相手は腹を割って話していなかったなんてこともある。
お互いに本音という人質を取った信頼関係
腹を割って話すことで得られる信頼関係は、お互いに本音という人質を取ったうえで成り立っている信頼関係に他ならない。
普段、他者に本音をさらさないからこそ、腹を割って話すのだから、本音は、基本的には、闇雲に他者にさらされると困るものであることが多いだろう。
本音という秘密を共有したことで信頼関係が深まったと感じるが、突き詰めて考えると、相手から本音という人質を受け取り、自分も本音という人質を差し出し、お互いに裏切れない状況を作ることで成り立った関係を信頼関係と呼んでいるだけのことだ。
お互いに包み隠さず意見を交換したことで、お互いの理解が深まり、信頼関係が増したなどと思わないほうが良い。
こちらも本音という人質を取っているが、相手も本音という人質を持っていること、裏切られれば、本音という人質を暴露することで報復は可能であるが、自分自身も本音を暴露され、大きな傷を負うリスクがあることを、頭の片隅にでも置いておくほうが良い。
最後に
私は腹を割って話すことが嫌いなわけでも、その意味がないと言いたいわけでもない。
一方で、腹を割って話すということは、清廉なもののように見えても、時に多くの欺瞞をはらんでいる可能性があるものだと思っている。
特にやたらと腹を割って話したがる人には注意が必要だ。
簡単に腹を割って話せる人は、腹を割って話している振りをしている人も多い。
腹を割って話すときは、慎重に相手を見極め、リスクを承知の上で話したほうが良いと思う。